ディープインパクト、キングカメハメハの死去に伴い、ポスト・ディープ・キンカメ世代の熾烈なリーディング争いが始まろうとしています。さらにドゥラメンテの早逝、クロフネ・ハーツクライ等有力種牡馬も引退。いよいよ新時代の幕開けを感じます。

 デビューを待つ現2歳世代。その活躍が楽しみな部分もあるのですが、いったいどの種牡馬が芝のクラシック戦線で活躍するのか、現時点でのデータを見ながら推測したいと思います。

 そこで参考にしたいのが亀谷敬正氏提唱する「ダートシェア率」という考え方です。各種牡馬の勝ち鞍のうち、ダートの勝ち鞍がどれくらいあるのか…という切り口の種牡馬考察です。下表に一覧をまとめましたので、そちらをご覧になりながら本論を一緒にお考え下さい。

※本来であれば勝鞍数ではなく、賞金順に並べたい所なのですが、データを集約するのに膨大な時間がかかるため、今回は勝鞍数で考察させて下さい。

2022年2月20日現在

2021年のリーディング種牡馬20位における過去3年分の「ダートシェア率」の推移と、2022年2月20日現在の「ダートシェア率」の実績です。

  2018年 2019年 2020年 2021年 (2022年)
ディープインパクト 4.5% 5.8% 13.6% 13.1% 15.2%
ロードカナロア 25.5% 31.9% 32.4% 31.5% 42.1%
ハーツクライ 22.2% 27.2% 29.4% 29.2% 40.0%
キズナ 21.2% 36.0% 47.1% 60.0%
キングカメハメハ 45.5% 34.7% 41.6% 38.7% 59.1%
エピファネイア 9.7% 14.1% 15.6% 20.0%
ルーラーシップ 23.0% 32.1% 30.3% 40.6% 25.0%
オルフェーヴル 40.3% 37.9% 41.5% 47.0% 60.0%
ダイワメジャー 33.0% 27.1% 28.9% 36.7% 25.0%
ヘニーヒューズ 95.5% 92.9% 92.0% 99.0% 100.0%
ドゥラメンテ 24.3% 33.0% 41.2%
モーリス 9.7% 30.0% 31.3%
スクリーンヒーロー 30.3% 35.6% 38.3% 44.4% 40.0%
キンシャサノキセキ 65.7% 53.0% 73.0% 78.8% 100.0%
ハービンジャー 10.4% 12.7% 7.8% 12.5%
ジャスタウェイ 26.5% 42.3% 45.8% 57.1%
シニスターミニスター 96.9% 100.0% 96.9% 98.2% 100.0%
ゴールドシップ 20.0% 17.5% 8.8% 18.2%
パイロ 90.0% 97.6% 97.8% 97.7% 100.0%
リオンディーズ 21.4% 36.1% 54.5%

 2月時点というのがミソで、この季節はダートのレースが多いです。ダートシェア率も少し下駄を履いているという点は意識してご覧ください。

 

 全盛期のサンデーサイレンスのダートシェア率が20%~25%だったので、今回、「芝を主戦場にする産駒」を多く輩出する種牡馬のダートシェア率を、切りの良いところで30%で線引きしたいと思います(上の表に着色しています)。

 芝の重賞などの上級条件を引っ張ってきたのはディープインパクト、ハーツクライと言って間違いは無いと思います。

 キングカメハメハは芝・ダート両刀使い。ダートでも強い産駒を輩出する…といったタイプの種牡馬です。以前に触れたこともあるのですが、母の特性を「引き出すタイプ」の種牡馬と言えます。母がダートを得意とするならダートで活躍する産駒を、芝を走っていた母からは芝馬が生まれやすいです。

 ロードカナロアも勝鞍がダートにシフトしてきています。ただダートで勝ち上がるのは下級条件まで。重賞は通算で46勝していますが、ダート重賞は1勝止まり。ダートでは勝星を挙げるも、頭打ちする産駒が多い事は否めません。近年は芝1200m~1600mの重賞勝ち馬が目立ち、スプリンター・マイラーが目立ってきています。2020年は2000万円だった種付け料が、2021・2022年度は1500万円まで下がりました。サートゥルナーリア、アーモンドアイといった優秀な産駒を輩出していた当初とは違い、ここ数年はこの種牡馬にとって試金石になりそうです。

 次に過去3年でデビューした種牡馬として、オルフェーヴル、キズナが挙がります。初年度は大量に種付けされて、そこそこ芝で走る馬を量産していたのですが、ダート化が顕著になってきました。芝の重賞で活躍する馬を出すこともあるのですが、ダートの下級条件で走る馬が増えてきました。ただしそこは下級条件止まり。ダートの上級クラスでは通用しません。デビュー時の勢いは無いような気がします。2022年の種付け料はオルフェーヴル350万に対し、キズナは値上げをして1200万円で満口。ただ気になる事があります。2020年産まれ世代に限定してみると、ノーザンファームで種付けされ、出生したキズナ産駒はわずか9頭。同社台ファーム(20頭)、同白老ファーム(2頭)。そもそも本家本元で種付けを控えられている点、心許ないです。

 ポスト・ディープインパクトとして高確率で芝馬を輩出してきそうな雰囲気があるのはエピファネイアです。すでにG1を7勝。デアリングタクト、エフフォーリア、サークルオブライフと各世代にG1馬を出しています。ただ盤石か…と言われれば、もう少し様子を見る必要があると思います。上記3頭以外に重賞勝ち馬はアリストテレスのみ。オープンクラスで勝ち負けになる産駒が他に見当たりません。2022年の種付け料は1800万円まで上がり、一気に頂点に昇り詰めました。その価格に見合った産駒が出てくるか、注視したいところです。

 ダート路線ではヘニーヒューズが一歩リード。シスターミニスター、パイロといったA.P.Indy系が着実にリーディング上位に来ています。

以上、上位種牡馬に関する考察でした。

 補足ですが、ダートシェア率が低い、ハービンジャー産駒・ゴールドシップ産駒について。これら2頭の産駒は芝を走る馬が多いのではなく、ダートで全く走らないのです。2021年のダート戦での勝率は順に、2.3%(出走172回)、2.8%(出走108回)。ダート戦に出走しても勝てないのが実情であり、必然的にダートシェア率が低くなっています。

 新種牡馬について、昨年の2歳リーディングから特筆すべきは2頭。まずは新種牡馬シルバーステート(ダートシェア率:5.3%)。初年度からウォーターナビレラがファンタジーSを勝ちました。出走頭数が増えてきたらどんな傾向になるのか注目です。優駿SSに繁用されており、2022年は600万円まで種付け料が上がりましたが、すでに満口。生産者はよく見ています。もう1頭はドレフォン。初年度で30勝を挙げました。優秀ですがダートシェア率が67.8%。種牡馬自身ダートの短距離を主戦場にしていたのですが、ジオグリフの活躍が注目を集めたのでしょうか、種付け料は700万円まで上がり、すでに満口。こちらはやや人気先行している気がします。

 2022年に初年度産駒がデビューする主な内国産の種牡馬を挙げると、サトノダイヤモンド、リアルスティール、サトノクラウン、ミッキーロケット、レッドファルクス、ファインニードル。どんな活躍馬を出すのか楽しみです。

 

 以上、各種牡馬の詳細について見てきましたが、まだ現役世代がいるので、数年はディープインパクトやハーツクライがG1を勝つ今までのリーディング上位に変化は無いでしょう。しかしディープインパクト・キングカメハメハ・クロフネ産駒は現2歳世代にいません(ディープは数頭いるのですが…)。ハーツクライ・ドゥラメンテ産駒も現2歳世代まで。ディープ&キンカメ2強世代は否が応でも終わりを迎えます。そこからは種牡馬の戦国時代が始まると思います。どの種牡馬も一長一短。今後どのように種牡馬リーディングが推移していくのか、分析のし甲斐があります。思う所があれば、このHPで更新していきます。

 次回は2022年度のノミネーション情報を基に、生産者がどのような種牡馬を求めているのか、視点を変えて考察していきたいと思います。

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