前回はダイナカール牝系のキングカメハメハ系種牡馬、ルーラーシップについて見てきましたが、今回はルーラーシップの甥に当たる、ドゥラメンテについて見ていきたいと思います。
(注)この種牡馬レビューは、G1や重賞で活躍する馬の特徴を調べているのではなく、産駒全体の傾向を調べています。どちらかというと、生産者や馬主視点の分析となりますので、ご留意ください。
「牝馬の適性を引き出す型種牡馬」キングカメハメハの後継、ドゥラメンテを考察する上で、母のアドマイヤグルーヴについても触れておきます。アドマイヤグルーヴはクラシックには間に合ったものの、桜花賞3着、オークス7着、秋華賞2着とあと一歩のところ。しかし、同年のエリザベス女王杯を制します。4歳時には天皇賞秋で3着の後、エリザベス女王杯を2年連続で制します。その後、不振が続きましたが、5歳時のエリザベス女王杯も3着と好走しました。アドマイヤグルーヴはまだ馬場が高速化する前の、いわゆる中距離型競走馬として活躍しました。引退レースでは敢えて、マイル戦である阪神牝馬ステークスが選ばれ、1’34”5で優勝。マイルに対応できるスピードも兼ね備えている事を最後に証明しました。
アドマイヤグルーヴの生涯成績はコチラ。
おそらく、ドゥラメンテはルーラーシップ(母エアグルーヴ)に(サンデーサイレンスの)素軽さを加えた、スピードを兼ね備えた、本格的中距離産駒だったと言えると考えています。
キングカメハメハ 2001 鹿毛 Mr. Prospector系 |
Kingmambo (米) 1990 鹿毛 |
Mr. Prospector 1970 鹿毛 |
Raise a Native 1961 栗毛 |
Native Dancer |
Raise You | ||||
Gold Digger 1962 鹿毛 |
Nashua | |||
Sequence | ||||
Miesque 1984 鹿毛 |
Nureyev 1977 鹿毛 |
Northern Dancer | ||
Special | ||||
Pasadoble 1979 鹿毛 |
Prove Out | |||
Santa Quilla | ||||
マンファス Manfath(愛) 1991 黒鹿毛 |
ラストタイクーン Last Tycoon(愛) 1983 黒鹿毛 |
トライマイベスト 1975 鹿毛 |
Northern Dancer | |
Sex Appeal | ||||
Mill Princess 1977 鹿毛 |
Mill Reef | |||
Irish Lass | ||||
Pilot Bird 1983 鹿毛 |
Blakeney 1966 鹿毛 |
Hethersett | ||
Windmill Girl | ||||
The Dancer 1977 鹿毛 |
Green Dancer | |||
Khazaeen | ||||
アドマイヤグルーヴ 2000 鹿毛 FNo.[8-f] |
サンデーサイレンス Sunday Silence(米) 1986 青鹿毛 |
Halo 1969 黒鹿毛 |
Hail to Reason 1958 黒鹿毛 |
Turn-to |
Nothirdchance | ||||
Cosmah 1953 鹿毛 |
Cosmic Bomb | |||
Almahmoud | ||||
Wishing Well 1975 鹿 |
Understanding 1963 栗毛 |
Promised Land | ||
Pretty Ways | ||||
Mountain Flower 1964 鹿毛 |
Montparnasse | |||
Edelweiss | ||||
エアグルーヴ 1993 鹿毛 FNo.[8-f] |
トニービン Tony Bin(愛) 1983 鹿毛 |
カンパラ 1976 黒鹿毛 |
Kalamoun | |
State Pension | ||||
Severn Bridge 1965 栗毛 |
Hornbeam | |||
Priddy Fair | ||||
ダイナカール 1980 鹿毛 |
ノーザンテースト 1971 栗毛 |
Northern Dancer | ||
Lady Victoria | ||||
シャダイフェザー 1973 鹿毛 |
ガーサント | |||
パロクサイド |
ルーラーシップは母がエアグルーヴ、ドゥラメンテは祖母がエアグルーヴという事で、4分の3同血となります。
ドゥラメンテはルーラーシップとは対照的に、2歳・3歳早期から活躍しました。共同通信杯はリアルスティールの2着に敗れましたが、その後に皐月賞・日本ダービーと連勝。特に日本ダービーでは父のキングカメハメハが持つダービーレコードを0.1秒更新するという、2400mでのハイパフォーマンスを見せました。その後放牧先で軽度の骨折が判明。大事を取って、3歳の秋は全休しました。4歳時に叩き台となった中山記念を制した後、メイダンのドバイシーマクラシック(芝2410m)に出走し、Postponedの2着と惜しいレースとなりました。実質引退レースとなった宝塚記念では道悪を味方につけたマリアライトに敗れ2着。その後、靭帯・腱の損傷により、惜しまれながら引退となりました。
ルーラーシップの血統で少しふれましたが、キングカメハメハは、「引き出し型種牡馬」です。しかし、また、別の所で解説したいと思いますが、サンデーサイレンスは、キングカメハメハ以上の「引き出し型種牡馬」です。サンデーサイレンスは全G1を制している通り、距離適性の主張はなく、母型の特徴を引き出します。よって、ドゥラメンテも、祖母エアグルーヴ(父トニービン)の影響が出る、欧州型の種牡馬だと言えます。ただ、キングカメハメハ・サンデーサイレンスが持つ、スピードも引き継いでいるはずなので、欧州型種牡馬の中でも、スピードはあるはずです。
ドゥラメンテは残念なことに、2021年8月、急性大腸炎のため早逝しました。2024年デビューする産駒たちがラストクロップとなります。
ドゥラメンテの生涯成績はコチラ。
ドゥラメンテの種牡馬成績です。(青は牡馬・せん馬、赤は牝馬)
2020年(44位)、2021年(11位)、2022年(4位)※2022.9.04現在
G1馬・・・タイトルホルダー(菊花賞、天皇賞春、宝塚記念)、スターズオンアース(桜花賞、オークス)
G2・G3馬・・・アリーヴォ(小倉記念)、バーデンヴァイラー(マーキュリーC)、ドゥーラ(札幌2歳S)
重賞勝ちは無いものの・・・キングストンボーイ(青葉賞芝2400m2着)、ドゥラドレース(毎日杯芝1800m3着)、アスコルターレ(マーガレットS芝1200m1着)、レヴァンジル(毎日杯芝2200m2着)、ベルクレスタ(アルテミスS芝1600m2着、クイーンC芝1600m2着)
初年度産駒からタイトルホルダー、2年目産駒スターズオンアースがクラシックを制覇しています。また3年目産駒から早々に、ドゥーラが札幌2歳Sを制しました。上に活躍馬を記しましたが、重賞で馬券に絡んだのはこれだけです(3世代だけですが…)。リーディング上位にのし上がったのは、やはり条件クラスの活躍馬が多いからです。そして、やはりキグカメハメハの特徴を受け継いでいるのは、活躍馬は牡馬に集中する事。牝馬でスターズオンアースという2冠馬を出しましたが、トータルで見ると、圧倒的に牡馬の活躍が多いです。
まずは産駒の年齢別の傾向から見てみましょう。
※集計期間 2020年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)
集計する分母(頭数)が小さいです。2歳戦は3世代分、3歳戦・3歳以上は2世代分のデータです。
2歳戦での活躍はまずます。勝率13.2%は全種牡馬の中でも優秀な成績です。2022年札幌2歳ステークスをドゥーラが制しました。ドゥラメンテ自身も初勝利を挙げたのが2歳時11月だったので、産駒のデビュー時期も早めになるのかもしれません。しかし、3歳時にクラシックに向けて動き出すと、現時点では重賞で苦戦する傾向があるようです。タイトルホルダー、スターズオンアースがクラシックを制し、活躍しているイメージがありますが、さほど3歳限定重賞で勝利数を伸ばすことが出来ません。ただ、古馬混合の上級条件戦になると、一気に数字が跳ね上がります。1走あたりの賞金も、2・3歳戦の倍以上まで伸びます。この辺りは、祖母エアグルーヴの晩成傾向が出ているのではないでしょうか。今後も古馬の出走回数が増えるごとに、サイアーランキングも上位争いに加わりそうです。
対象レース | 出走回数 | 勝利数 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
2歳戦 | 547 | 72 | 13.2% | ¥1,553,308- |
3歳戦 | 1043 | 94 | 9.0% | ¥1,521,534- |
3歳以上戦 | 478 | 61 | 12.8% | ¥3,542,175- |
3歳戦とは、3歳未勝利戦、3歳限定戦(クラシック、同トライアル)の成績の合計値です。3歳以上とはダービー翌週からの古馬混合戦となります。年が明けて、4歳以上のレースもこのカテゴリに含まれます。
次に性別の成績を見てみましょう
※集計期間 2020年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)
牡馬・せん馬の成績が優秀ですね。牝馬はかなり苦戦しています。この点はキングカメハメハの影響を引き継いでいるようです。後述しますが、牝馬がダートで極端に成績を落とすことが、牝馬不振の要因のひとつでもあります。
※集計期間 2020年6月~2022年7月
性別 | 出走回数 | 勝利数 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
牡馬・せん馬 | 1134 | 146 | 12.9% | ¥2,412,817- |
牝馬 | 934 | 81 | 8.7% | ¥1,481,199- |
距離・芝/ダ・性別を比較してみましょう。
※集計期間 2020年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)
コース | 出走回数 | 勝利数 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
芝 | 1317 | 141 | 10.7% | ¥2,439,939- |
ダート | 747 | 85 | 11.4% | ¥1,209,210- |
芝での「1走あたり賞金」は他の種牡馬と比べて、かなり高い方です。ダートの勝率は高いですが、めっぽう得意という訳ではありません。「1走あたりの賞金」を見る限り、下級条件であれば、ダートもこなす・・・といったイメージです。これからダート重賞で活躍する産駒が出てくるか、注目したい所です。
芝成績詳細
※集計期間 2020年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)
性別 | 距離 | 出走回数 | 勝利数 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
牡馬・せん馬 | 1000~1200m | 50 | 4 | 8.0% | ¥1,452,800- |
1400~1600m | 179 | 17 | 9.5% | ¥1,457,151- | |
1800m~2200m | 436 | 53 | 12.2% | ¥2,732,569- | |
2300m~3600m | 51 | 9 | 17.6% | ¥11,040,980- | |
牝馬 | 1000~1200m | 62 | 1 | 1.6% | ¥505,000– |
1400~1600m | 224 | 22 | 9.8% | ¥2,042,545- | |
1800m~2200m | 296 | 32 | 10.8% | ¥1,584,087- | |
2300m~3600m | 19 | 3 | 15.8% | ¥7,978,947- |
※牡馬2300m~3600m:9勝中4勝がタイトルホルダーによるものなので、勝率・1走あたりの賞金も偏った数字になっています。
※牝馬2300m~3600m:スターズオンアースのオークス優勝によるものです。
牡馬・牝馬で若干傾向が変わっています。
牡馬では勝鞍の大半が1800m~2200mに集中しており、単距離の期待値は低いです。1000m~1600mも走らないわけではないのですが、そもそも出走数が少なすぎます。調教師が1800m以上のレースを選択しているという結果になっています。現時点では、1800m~2200mで極めて高いパフォーマンスを残していると言えます。
牝馬は牡馬と違い、1400m~1600mのレースにもデータを取るのに十分な出走数を確保しており、勝率・「1走あたりの賞金」も高くなっています。古馬上級条件でも十分に戦えていると言えます。さらに、1800m~2200mのレンジでは、一定の勝利数・勝率は確保しています。中距離戦でも十分に戦えますね。ただ「1走あたり賞金」が低くなる事から、上級条件では苦戦していると言えますね。
ドゥラメンテの産駒は生産者別にみると、全141勝のうち、77勝が社台グループ(社台ファーム、ノーザンファーム、白老ファーム)が占めており、その他の牧場との違いが明確に出ています。配合の面で、社台グループでは、米国型繁殖牝馬との間に産まれた産駒の成績が良いです。逆に、その他の牧場では、いわゆる「いままで繁殖として良績を挙げていた牝馬」は、欧州型血統のケースが多く、その産駒も、中距離適性の要素が多分に盛り込まれていると言えます。例えば岡田スタッド生産のタイトルホルダーは母父が英国ダービーを制したMotivatorであり、G1の勝鞍は2200m以上です。
ダート成績
※集計期間 2020年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)
性別 | 距離 | 出走回数 | 勝利数 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
牡馬・せん馬 | 1000m~1400m | 140 | 21 | 15.0% | ¥1,540,643- |
1600m~1800m | 236 | 38 | 16.1% | ¥1,609,788- | |
1900m~2400m | 38 | 3 | 7.9% | ¥883,421- | |
牝馬 | 1000~1400m | 133 | 5 | 3.8% | ¥475,639- |
1600m~1800m | 195 | 18 | 9.2% | ¥1,070,667- | |
1900m~2400m | 5 | 0 | 0.0% | ¥414,000- |
ダート替わりも得意な方ですが、これも牡馬・せん馬が中心。牡馬・せん馬は短い距離(1400m以下)に対応して、条件戦でもそこそこ成績を残している事です。ダート戦を使うにあたり、早い時計で気性を前向きな馬に調教で仕上げていくと、短距離対応可能と言った辺りでしょうか。1000~1800mでは、勝率・1勝当たりの賞金が高く、優秀です。また1900m以上になると、あまり期待はできません。牝馬は基本的にダート替わりは苦手なようです。走るとしても1600m~1800mの下級条件まで。牡馬と牝馬を比べた際に、牝馬の成績がイマイチなのは、ひとえに牝馬のダート替わりで成績を上げられない点にありそうです。
まとめ
・2歳戦から力を発揮する産駒が多く、なおかつ古馬になっての「伸びしろ」は極めて高い。
・父キングカメハメハと同じ傾向で、牡馬に比べ、牝馬のパフォーマンスが低い。これは牝馬のダート適性が、著しく下がるという要素がからんでくる。
・芝では牡馬は中距離(1800m~2200m)、牝馬はマイル(1400m~1600m)が得意。
・ダートで上級条件まで成績を残すのは、牡馬が多く、スプリント戦~中距離にも対応。このあたりが種牡馬としての存在価値を高めている。サイアーランキングでも上位争いができる。
・近年、配合の工夫、調教技術の向上により、数字上の根拠はないが、少し短い距離へ対応できる馬が出てきている印象がある。
・まだデビューして3年しか経たないデータなので、今後、調教方針・配合の工夫などにより、傾向が変わる可能性もある。
・残念ながらドゥラメンテは死亡しており、2023年デビューの産駒がラストクロップとなる。