前回はキングカメハメハの戦績、種牡馬としての特徴をまとめてきました。今回は「繁殖牝馬の適性引き出し型」種牡馬キングカメハメハの中から、ダイナカール牝系の2頭の種牡馬(ルーラーシップ、ドゥラメンテ)を取り上げます。まずはルーラーシップの傾向を見ていきたいと思います。


(注)この種牡馬レビューは、G1や重賞で活躍する馬の特徴を調べているのではなく、産駒全体の傾向を調べています。どちらかというと、生産者や馬主視点の分析となりますので、ご留意ください。


 ルーラーシップは2009年にデビューしたのですが、クラシックでは活躍できず、3歳秋から徐々に成績を伸ばし、本格化した5歳でG1初勝利。香港のクイーンエリザベスカップですその年は宝塚記念で2着、秋の中距離G1の王道、天皇賞秋・ジャパンカップ・有馬記念で連続3着の実績を買われて、社台スタリオンステーションで種牡馬として繁用されました。自身が晩成型であったことは、種牡馬としての成績にも表れています

《母エアグルーヴについて》 

 1995年にデビュー。芝中距離を中心に活躍してきました。ただ注意が必要なのは、この時代の芝中距離レースは、直線でのスピードよりもスタミナ質が重要でした。走破時計も現在と比べれば遅いですし、G1でもまず上がり3Fが33秒台になる事はありません。ルーラーシップはこの母エアグルーヴ中距離におけるスタミナを引き継ぎ、また父キングカメハメハから現代競馬に必要なスピードを受け継いでいます。

 エアグルーヴの父、トニービンはアイルランド産、イタリア調教馬でした。主な戦績は1988年凱旋門賞で2着、1989年にキングジョージⅥQEDSを3着、その後凱旋門賞で優勝しました。同年に勢いそのままジャパンカップに参戦し、0.4秒差の5着に入り、日本で種牡馬入りする事が決まりました。そのトニービンの最高傑作が、生涯獲得賞金8億2,196万円を獲得したエアグルーヴです。

エアグルーヴの生涯成績についてはコチラから。

 

《ルーラーシップについて》

 ルーラーシップの血統表を見てみましょう。

キングカメハメハ
2001 鹿毛
Mr. Prospector系
Kingmambo
(米)
1990 鹿毛
Mr. Prospector
1970 鹿毛
Raise a Native
1961 栗毛
Native Dancer
Raise You
Gold Digger
1962 鹿毛
Nashua
Sequence
Miesque
1984 鹿毛
Nureyev
1977 鹿毛
Northern Dancer
Special
Pasadoble
1979 鹿毛
Prove Out
Santa Quilla
マンファス
Manfath(愛)
1991 黒鹿毛
ラストタイクーン
Last Tycoon(愛)
1983 黒鹿毛
トライマイベスト
1975 鹿毛
Northern Dancer
Sex Appeal
Mill Princess
1977 鹿毛
Mill Reef
Irish Lass
Pilot Bird
1983 鹿毛
Blakeney
1966 鹿毛
Hethersett
Windmill Girl
The Dancer
1977 鹿毛
Green Dancer
Khazaeen
エアグルーヴ
1993 鹿毛
FNo.[8-f]
トニービン
Tony Bin(愛)
1983 鹿毛
カンパラ
Kampala(英)
1976 黒鹿毛
Kalamoun
1970 芦毛
ゼダーン
Khairunissa
State Pension
1967 鹿毛
オンリーフォアライフ
Lorelei
Severn Bridge
1965 栗毛
Hornbeam
1953 栗毛
Hyperion
Thicket
Priddy Fair
1956 鹿毛
Preciptic
Campanette
ダイナカール
1980 鹿毛
ノーザンテースト
Northern Taste(加)
1971 栗毛
Northern Dancer
1961 鹿毛
Nearctic
Natalma
Lady Victoria
1962 黒鹿毛
Victoria Park
Lady Angela
シャダイフェザー
1973 鹿毛
ガーサント
1949 鹿毛
Bubbles
Montagnana
パロクサイド
1959 栗毛
Never Say Die
Feather Ball

 

 ルーラーシップはキングカメハメハの母父マンファスとエアグルーヴの欧州的なスタミナ質を強くに引き継いでいます。そしてダイナカールの父、ノーザンテーストは中距離適性を非常に高める要素になります。3歳時には1800mも使われていましたが、古馬になると2000m~2500mと、中距離の中でも長めのレースを使われています。出遅れグセがあったので、終いに脚を使う競馬も多く、上がり3Fで33秒台も出せるようなスピードも備えていました。その辺りは父キングカメハメハのスピードを引き継いでいるものだと考えられます。

 ルーラーシップの生涯成績はコチラから。

 

 ルーラーシップの種牡馬成績です。(青は牡馬・せん馬、赤は牝馬)

2016年(65位)、2017年(12位)、2018年(8位)、2019年(5位)、2020年(6位)、2021年(7位)、2022年(7位)※9/18現在

G1勝馬・・・キセキ(菊花賞芝3000m)

G2,G3勝馬・・・ダンビュライト(AJCC芝2200m・京都記念芝2200m)リオンリオン(青葉賞芝2400m・セントライト記念芝2200m)メールドグラース(新潟大賞典芝2000m・鳴尾記念芝2000m・小倉記念芝2000m)ムイトオブオブリガード(アルゼンチン共和国杯芝2500m)ワンダフルタウン(京都2歳S芝2000m・青葉賞芝2400m)グロンディオーズ(ダイヤモンドS芝3400m)エヒト(七夕賞芝2000m)、テトラドラグマ(クイーンC芝1600m)ディアンドル(葵S芝1200m・福島牝馬S芝1800m)パッシングスルー(紫苑S芝2000m)フェアリーポルカ(福島牝馬S芝1800m・中山牝馬S芝1800m)ホウオウイクセル(フラワーC芝1800m)ソウルラッシュ(読売MC芝1600m)

重賞勝ちは無いものの・・・サンリヴァル(皐月賞芝2000m2着)リリーノーブル(阪神JF芝1600m2着・桜花賞芝1600m3着・オークス芝2400m2着)、アディラート(グリーンチャンネルCダ1400m)ウラヌスチャーム(新潟牝馬芝2000m1着、メトロポリタンS芝2400m1着)アンティシペイト(福島民報杯芝2000m1着)ダンツキャッスル(大沼Sダ1700m1着)カレンシュトラウス(東京新聞杯芝1600m4着・メイS芝1800m1着)ヴァンケドミンゴ(福島記念芝2000m2着・七夕賞芝2000m3着)ライラックカラー(カーバンクルS芝1200m1着)、タイセイディバイン(アーリントンC芝1600m2着)、ラズベリームース(アネモネS芝1600m2着)、グランレイ(朝日杯FS芝1600m3着)

 やはり、G1まであと一歩という産駒が多いです。代表産駒はキセキ。4歳時のジャパンカップでは52㎏のアーモンドアイに敗れましたが、同斤なら確実に勝っていました。大阪杯2着、宝塚記念2年連続2着など、活躍が目立つ中、ムラがけな傾向がありましたが、生涯で約7億円を稼いでいます。そして、稼ぎ頭2番手に来るのはダンビュライト。皐月賞3着は特筆すべきです。出走レースはムラがけなイメージがありますが、順当に賞金を稼ぎました(生涯約3億)。以下、メールドグラース、ディアンドル、ムイトオブオブリガードと続きます。

 3歳前半から動けたのは、ダンビュライト、サンリヴァル、リリーノーブルといった辺りでしょうか。以下で述べますが、本格化するのは3歳後半~4歳以降という産駒が多いです。

 タイセイディバイン、ラズベリームース、グランレイなど、ここ数年で飛躍的に早期から重賞戦線に加わる産駒が増えています。配合を工夫した効果が表れています。母米国型の方が仕上がりが早いです。

 

 まずは産駒の年齢別の傾向から見てみましょう。

・2歳戦での勝ち上がりはまずまずですが、上級条件で戦えるようになるのは3歳夏以降。勝率に顕著な年齢差はありませんが、1走あたりの賞金を見て頂ければ、上級条件で活躍するのは3歳夏以降という事になります。そこで、3歳と4歳とで差が出てくるのかという点を見たかったのですが、そこまでデータをキャッチアップする事はできませんでした。ただ、ここ3年ぐらいは2歳重賞・3歳重賞にも産駒が出走し、勝たないまでも好走するケースが増えてきました。育成技術が向上している事も影響しているかもしれません。

※集計期間 2016年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)

対象レース 出走回数 勝利数 勝率 1走あたり賞金
2歳戦 1251 107 8.6% ¥1,203,661-
3歳戦 2772 228 8.2% ¥1,177,190-
3歳以上 3270 285 8.7% ¥2,185,431-

3歳戦とは、3歳未勝利戦、3歳限定戦(クラシック、同トライアル)の成績の合計値です。3歳以上とはダービー翌週からの古馬混合戦となります。年が明けて、4歳以上のレースもこのカテゴリに含まれます。

 

 次に性別の成績を見てみましょう

※集計期間 2016年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)

性別 出走回数 勝利数 勝率 1走あたり賞金
牡馬・せん馬 4182 402 9.6% ¥1,944,089-
牝馬 3111 218 7.0% ¥1,216,692-

 牡馬・せん馬の成績が優秀です。牝馬は苦戦しています。この点はキングカメハメハの影響を引き継いでいるようです。

 

 距離・芝/ダ・性別を比較してみましょう。

※集計期間 2016年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)

芝・ダート 勝鞍 出走回数 勝率 1走あたり賞金
399 4437 9.0% ¥1,939,513-
ダート 197 2672 7.4% ¥1,058,716-

 ダート替わりが、めっぽう得意という訳ではありませんが、1走あたりの賞金を見る限り、下級条件であれば、ダートもこなす・・・といったイメージです。

芝成績詳細

性別 距離 出走回数 勝利数 勝率 1走あたり賞金
牡・せん馬 1000~1200m 98 7 7.1% ¥1,355,102-
1400~1600m 485 54 11.1% ¥2,041,092-
1800~2200m 1437 141 9.8% ¥2,219,582-
2300~3600m 596 73 12.7% ¥3,769,161-
1000~1200m 266 23 8.6% ¥1,238,271-
1400~1600m 613 31 5.1% ¥1,074,698-
1800~2200m 1055 87 8.3% ¥1,579,402-
2300~3600m 175 16 9.1% ¥1,901,257-

 まず、ほかの種牡馬と絶対的に傾向が異なる点は、性別によらず、距離2300m~3600mの1走あたり賞金が最も大きくなる点です。この距離を得意とする現役種牡馬では他にはいないです。

 牡馬牝馬とも1800m~2200mを得意としており、1走あたりの賞金はかなり高い方です。さすが毎年種牡馬リーディング10位以内に入っているだけの事はあります。

 牝馬ではディアンドルやリリーノーブルの活躍があり、牝馬は短い1000m~1600mも走る・・・というイメージがありますが、苦戦を強いられています。出走頭数や・勝鞍も多い方で、走る事は走っていますが、1走あたりの賞金を見る限り、あくまで下級条件までといった所です。

 牡馬で特筆すべきは1400m~1600m戦で好成績を挙げているという点。私のイメージとは違いました。そもそも出走機会は多くはないのですが、1走あたり賞金を比べても他のキンカメ系種牡馬より高いです。上級条件まで活躍馬を出しているという事ですね。

 中距離種牡馬なのにスプリント戦・マイル戦を勝ちあがる産駒が多数いるのは、やはり産駒の配合の妙です。芝・ダート問わず、スプリント戦で活躍した母との配合は、適性距離の短縮を生みます。配合によって、産駒の距離適性も変わるという点は、最重要ポイントなので、押さえておいてください。近年は配合により細かい工夫が見られます。ルーラシップとの配合で好成績を残しているのは、母父サンデーサイレンス系です。各生産牧場において、この配合パターンが多いですね。母父サンデーサイレンス系で、祖母もスプリント血統であれば、短い距離にも対応可能です。逆に母が欧州系ノーザンダンサーの繁殖牝馬からは、長い距離で活躍する産駒が生まれる傾向があります。

 

ダート成績詳細

2016年6月~2022年9月4日(3歳未勝利戦終了)

性別 距離 出走回数 勝利数 勝率 1走あたり賞金
牡・せん馬 1000~1400m 318 30 9.4% ¥1,352,610-
1600~1800m 1022 79 7.7% ¥1,105,734-
1900~2400m 275 20 7.3% ¥1,298,764-
1000~1400m 328 13 4.0% ¥741,799-
1600~2400m 702 54 7.7% ¥921,980-
1900~2400m 27 1 3.7% ¥777,778-

 ダート替わりも得意な方ですが、これも牡馬・せん馬が中心。意外だったのは牡馬・せん馬は短い距離(1400m以下)に対応して、条件戦でもそこそこ成績を残している事ですね。ダート戦を使うにあたり、早い時計で気性を前向きな馬に調教で仕上げていくと、短距離対応可能と言った辺りでしょうか。またレース数の多い、1600m~1800mで数字が下がっているように見えますが、分母(出走頭数)が大きい分、より正確な値が出ているのかもしれません。また1900m以上になると、勝率は低いものの、1走あたり賞金が高くなり、上級条件まで対応している事が示されています。牝馬は基本的にダート替わりは苦手なようです。

 

まとめ

・3歳夏以降、4歳以降に良績を残す、晩成型の産駒をが多い。

・父キングカメハメハと同じ傾向で、牡馬に比べ、牝馬のパフォーマンスが低い。

・芝は中距離以上、特に2300m以上の活躍は特筆すべき事項。牡馬はマイルもこなす。

・ダートで上級条件まで成績を残すのは、牡馬が多く、短距離・または長距離戦に功績がある。

・近年、配合の工夫、調教技術の向上により、数字上の根拠はないが、少し短い距離へ対応できる馬が出てきている印象がある。

 

以上、ルーラーシップのまとめでした。

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