今回は「繁殖牝馬の適性引き出し型」種牡馬キングカメハメハの中から、ロードカナロアを見ていきたいと思います。
(注)この種牡馬レビューは、G1や重賞で活躍する馬の特徴を調べているのではなく、産駒全体の傾向を調べています。どちらかというと、生産者や馬主視点の分析となりますので、ご留意ください。
ロードカナロアは2歳の12月にデビュー。1400m~1600m戦で敗戦した後、春に葵ステークス(OP)を優勝。勢いそのままに、京阪杯を3歳ながら勝利。開け4歳時にはシルクロードステークスを制しましたが、高松宮記念は3着止まり。本格化を感じたのは、同年(4歳)で、ひと夏を越した頃。秋のスプリンターズステークスでG1初制覇。勢いそのままに、年末の香港スプリントを制しました。それからは無敵です。翌年、高松宮記念、そして距離延長を試した安田記念、スプリンターズステークス、香港スプリントと、この年に出走したG1すべて優勝しました。生涯成績は19戦13勝、G1:6勝、G3:2勝。(なぜかセントウルステークスとは相性が悪く、勝てませんでした)。成績の傾向を見ても、やはり3歳クラシックに間に合うような、早熟性は持ち合わせていませんでした。3歳夏以降に本格化した、晩成型だと言えます。
ロードカナロアは芝1200mで功績を残しました。しかし、個人的な見解ですが、安田記念を制したように、もし使っていれば、マイルG1も無双していた可能性があると考えています。出走レースが芝1200mに集中しているのは、安田隆厩舎の調教方針に原因があります。当時の安田厩舎の調教方針は、本数多め、栗東坂路で速い時計でビシビシ追うスタイル。どうしても前進気性が際立ってきます。2022年現在、同厩舎の歴代稼ぎ頭を見てみます。上位7頭です。ロードカナロア、ドランセンド、ダノンスマッシュ、カレンチャン、グレープブランデー、ダッシャーゴーゴー、ダイアトニック。トランセンドは中距離で活躍しましたが、それ以外はスプリンターです。もし預託先の厩舎が違っていれば、ロードカナロアはどんな成績を残したんだろう・・・と考える事が多いです。芝2000mまでは見たかったです。
母のレディブロッサムは1998年にデビュー。芝短距離を中心に活躍してきました。24戦5勝で最終的に準オープンクラスに在籍しました。
祖母のサラトガデューについても触れておきます。アメリカで競争生活を送っていたのですが、11戦8勝、G1:2勝。制したG1はガゼルハンデステークス、ベルデームステークスと芝1800mで活躍しました。なぜ祖母に触れるかと言うと、血統的にかなり重要なエッセンスになっているからです。また後述します。
レディブロッサムの戦績はコチラ。
キングカメハメハ 2001 鹿毛 Mr. Prospector系 |
Kingmambo (米) 1990 鹿毛 |
Mr. Prospector 1970 鹿毛 |
Raise a Native 1961 栗毛 |
Native Dancer |
Raise You | ||||
Gold Digger 1962 鹿毛 |
Nashua | |||
Sequence | ||||
Miesque 1984 鹿毛 |
Nureyev 1977 鹿毛 |
Northern Dancer | ||
Special | ||||
Pasadoble 1979 鹿毛 |
Prove Out | |||
Santa Quilla | ||||
マンファス Manfath(愛) 1991 黒鹿毛 |
ラストタイクーン Last Tycoon(愛) 1983 黒鹿毛 |
トライマイベスト 1975 鹿毛 |
Northern Dancer | |
Sex Appeal | ||||
Mill Princess 1977 鹿毛 |
Mill Reef | |||
Irish Lass | ||||
Pilot Bird 1983 鹿毛 |
Blakeney 1966 鹿毛 |
Hethersett | ||
Windmill Girl | ||||
The Dancer 1977 鹿毛 |
Green Dancer | |||
Khazaeen | ||||
レディブラッサム 1996 鹿毛 FNo.[2-s] |
Storm Cat (米) 1983 黒鹿毛 |
Storm Bird 1978 鹿毛 |
Northern Dancer 1961 鹿毛 |
Nearctic |
Natalma | ||||
South Ocean 1967 鹿毛 |
New Providence | |||
Shining Sun | ||||
Terlingua 1976 栗毛 |
Secretariat 1970 栗毛 |
Bold Ruler | ||
Somethingroyal | ||||
Crimson Saint 1969 栗毛 |
Crimson Satan | |||
Bolero Rose | ||||
サラトガデュー Saratoga Dew(米) 1989 鹿毛 |
Cormorant 1974 鹿毛 |
His Majesty 1968 鹿毛 |
Ribot | |
Flower Bowl | ||||
Song Sparrow 1967 鹿毛 |
Tudor Minstrel | |||
Swoon’s Tune | ||||
Super Luna 1982 鹿毛 |
In Reality 1964 鹿毛 |
Intentionally | ||
My Dear Girl | ||||
Alada 1976 鹿毛 |
Riva Ridge | |||
Syrian Sea |
血統を見ていきましょう。レディブロッサムは米国産、アメリカで競争生活を送った馬です。父がノーザンダンサー、Storm Bird の系統で、もう母としては日本でおなじみのスピード血統ですね。ただ、注意が必要なのは、祖母のサラトガデューです。主流血統ではないアメリカ独自の系統で、底力やスタミナ、産駒のスケール感をアップさせる事が多いのです。
サラトガデューの父、Ribotのラインは日本においては母型に入って、活躍馬を送り出します。例えば、G1勝馬を見ると、フジキセキ・マンハッタンカフェの母父です。祖母父に入ると枚挙にいとまがないのですが、ダンスパートナー、ダンスインザダーク、スズカマンボなど。血統表で見かける「Graustark」を探してみて下さい。出会う機会が多いと思います。それが祖母父ぐらい影響力があるポジションに入ると、地力が相当上がると考えて下さい(ちなみにGraustarkと、ロードカナロアに入るHis Majestyは全兄弟です)。
またサラトガデューの祖母父Super Lunaはそもそも三代祖、ダーレーアラビアンの子孫ではありません。ゴドルフィンアラビアンの末裔です。これも母型に入って、産駒のスケール間を増幅させます。G1勝馬を見ると、コントレイル・モズスーパーフレアの祖母父です。
サラトガデューの父・母父は異端です。非主流の血が、ロードカナロアの強さのエッセンスとなっており、非常に重要な役割を果たしています。ロードカナロアが一塊のスプリンターではないと考える根拠です。
ロードカナロアの種牡馬成績です。
2017年(40位)、2018年(7位)、2019年(3位)、2020年(2位)、2021年(2位)、2022年(2位)※9月4日現在
G1勝馬・・・アーモンドアイ(桜花賞、オークス、秋華賞、ジャパンカップ×2、ドバイターフ、手天皇賞秋×2、ヴィクトリアマイル)、ダノンスマッシュ(香港スプリント、高松宮記念、京阪杯、シルクロードS、キーンランドC、オーシャンS、京王杯SS、セントウルS)、サートゥルナーリア(ホープフルS、皐月賞、神戸新聞杯、金鯱賞)、ステルヴィオ(マイルCS、スプリングS)、レッドルゼル(JBCスプリント、根岸S)、パンサラッサ(ドバイターフ、福島記念、中山記念、)、ダノンスコーピオン(NHKマイルC、アーリントンC)
重賞勝ち馬・・・ダイアトニック(スワンS、函館SS、阪急杯)、ケイデンスコール(京都金杯、読売MC)、レッドガラン(中山記念、新潟大賞典)、トロワゼトワル(京成杯AH×2)、キングオブコージー(目黒記念、AJJC)、ファンタジスト(京王杯2歳S)、イベリス(京都牝馬S)、タイムトゥヘヴン(ダービー卿CT)、ファストフォース(CBC賞)、アールスター(小倉記念)、ジョーカナチャン(アイビスSD)、レイハリア(キーンランドC)、グルーヴィット(中京記念)、ボンボヤージ(北九州記念)、ヴァルディゼール(シンザン記念)、サブライムアンセム(フィリーズレビュー)、キングエルメス(京王杯2歳S)、バーナードループ(兵庫CS)
この戦績が全てを物語っていますね。
まずは産駒の年齢別の傾向から見てみましょう。
・2歳戦、3歳戦限定戦の成績は極めて優秀です。その上、古馬混合戦になると、経験を積んで大舞台でも戦えるようになります。早熟性もあり、古馬になっての伸びしろもあるという、極めて優良な種牡馬です。1走あたりの賞金を見て頂ければ、上級条件で活躍するのはやはり、3歳夏以降という事になります。
※集計期間 2017年6月~2022年9月4日※3歳未勝利戦終了時
対象レース | 出走回数 | 勝鞍 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
2歳 | 969 | 142 | 14.7% | ¥1,917,110- |
3歳 | 1491 | 143 | 9.6% | ¥1,789,1054- |
3歳以上 | 3453 | 373 | 10.8% | ¥3,104,017- |
次に性別の成績を見てみましょう。
牡馬・せん馬の成績が優秀ですね。この点はキングカメハメハの影響を引き継いでいるようです。ただ牝馬は牡馬に比べて成績は落ちますが、1走あたり賞金を見る限り、他の種牡馬より優秀な成績を残しています。
※集計期間 2017年6月~2022年9月4日※3歳未勝利戦終了時
性別 | 出走回数 | 勝鞍 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
牡馬・せん馬 | 2251 | 299 | 13.3% | ¥3,251,870- |
牝馬 | 2354 | 238 | 10.1% | ¥2,354,775- |
距離・芝/ダ・性別を比較してみましょう。
※集計期間 2017年6月~2022年9月4日※3歳未勝利戦終了時
コース | 出走回数 | 勝鞍 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
芝 | 4605 | 537 | 11.7% | ¥2,793,289- |
ダート | 2463 | 236 | 9.6% | ¥1,401,559- |
芝での成績は文句がありません。ダートの勝率は低くはないのですが、めっぽう得意という訳ではありませんが、1走あたりの賞金を見る限り、下級条件であれば、ダートもこなす・・・といったイメージです。
芝成績
性別 | 距離 | 出走回数 | 勝鞍 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
牡・せん馬 | 1000~1200m | 578 | 83 | 14.4% | ¥3,300,308- |
1400~1600m | 900 | 117 | 13.0% | ¥3,118,389- | |
1800~2200m | 704 | 90 | 12.8% | ¥3,093,594- | |
2300~3600m | 67 | 8 | 11.9% | ¥6,195,970- | |
牝馬 | 1000~1200m | 871 | 102 | 11.7% | ¥2,142,928- |
1400~1600m | 599 | 108 | 10.7% | ¥2,084,115- | |
1800~2200m | 468 | 25 | 5.3% | ¥1,856,880- | |
2300~3600m | 8 | 3 | 37.5% | ¥88,876,250- |
※牡馬:2300~3600m区分の勝利はゴールドギア(目黒記念1着、メトロポリタンS1着)、サートゥルナーリア(神戸新聞杯1着)によりるもの。
※牝馬:2300~3600m区分の勝利はアーモンドアイによるもの。JC×2、オークス
牡馬で最も出走回数が多いのが、1400m~1600m。次に1800m~2200m。意外とマイルから中距離への出走が多いです。そこで「ロードカナロア産駒はスプリンター」という固定概念があるかもしれませんが、牡馬に関しては中距離までこなすという事を強調したいです。各距離において、1走あたり賞金が非常に高く、スプリント戦から中距離戦までまんべんなく戦えています。
牝馬は逆に1000m~1200mのスプリント路線への出走回数が多く、勝率、1走あたり賞金が最も高いです。また1400m~1600mの成績も優秀で、マイルまではこなしていると言えます。ただ中距離戦になると、ガタっと成績(勝率)を落とすので、牡馬と違った傾向として覚えておきたいです。ただ、1走あたりの賞金がそこまで極端に落ちるわけではないので、中距離新馬・未勝利戦を勝ち上れる馬は上級条件でも頑張っている・・・と言えます。
ダート成績
性別 | 距離 | 出走回数 | 勝鞍 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
牡馬・せん馬 | 1000~1400m | 648 | 85 | 13.1% | ¥2,056,590- |
1600~1800m | 546 | 52 | 9.5% | ¥1,485,018- | |
1900~2400m | 83 | 4 | 4.8% | ¥1,047,349- | |
牝馬 | 1000~1400m | 758 | 63 | 8.3% | ¥1,099,010- |
1000~1400m | 419 | 31 | 7.4% | ¥909,475- | |
2000~2400m | 9 | 1 | 11.1% | ¥833,333- |
牡馬のみスプリント戦で上級条件まで勝ち切れています。中距離戦は下級条件まで。牝馬はダートは苦手。あまり期待できません。
近年 芝の成績を見てみましょう。
年別 | 出走回数 | 勝鞍 | 勝率 | 1走あたり賞金 |
芝2017年 | 183 | 37 | 20.2% | ¥2,296,721- |
芝2018年 | 620 | 82 | 13.2% | ¥3,283,306– |
芝2019年 | 912 | 109 | 12.0% | ¥2,827,061- |
芝2020年 | 1045 | 114 | 10.9% | ¥3,039,9123- |
芝2021年 | 1032 | 112 | 10.9% | ¥2,577,576- |
初年度産駒から好調で、2歳時に37勝を挙げ、ディープインパクトに次ぎ第2位に。3位のハーツクライとは14勝も差があり、堂々の出だし。最も勝率が高かったのも初年度。2018年は、アーモンドアイ、ステルヴィオがG1勝ち。ファーストクロップが3歳時にG1を5勝。ダノンスマッシュも京阪杯を制しました。この年の「1走あたり賞金」が最も高かったです。2019年はサートゥルナーリア、アーモンドアイがG1を制していますが、やや低調な年でした。2020年はアーモンドアイがG1を3勝し、全体的な成績もグンと持ち直しました。2021年はダノンスマッシュが高松宮記念を制するも、「1走あたり賞金」が急落。重賞や上級条件で勝ちきれませんでした。
種付け料・種付け頭数の推移
2014年(500万・250頭)、2015年(500万・276頭)、2016年(500万・267頭)、2017年(500万・250頭)
2018年(800万・294頭)、2019年(1500万・245頭)
2020年(2000万・179頭)
2021年(1500万・155頭)
初年度産駒が2017年にデビューするまでは、種付け料が500万円で、種付け頭数も250頭を超えていました。2018年~2020年までは現役馬がG1で活躍。ただ2020年は種付け料を2000万円と上げ過ぎたのか、種付け頭数が激減(179頭)。さらに、2021年には種付け料を1500万円まで下げましたが、種付け依頼の減少に歯止めがかかっていない状況です(155頭)。ちょうど今(2022年)が正念場。多様な種牡馬が活躍産駒を輩出し、種付け頭数も分散。種牡馬戦国時代に突入しています。
まとめ
・2歳戦から力を発揮する産駒が多く、なおかつ古馬になっての「伸びしろ」は極めて高い。
・父キングカメハメハと同じ傾向で、牡馬に比べ、牝馬のパフォーマンスが低い。これは牝馬のダート適性が、著しく下がるという要素がからんでくる。
・芝では、やはり1200m戦でのパフォーマンスが高い。ただ、牡馬に関してはマイル・中距離戦での成績もよく、上級条件でもきっちり結果を出している。牝馬はスプリント・マイルまで。中距離戦では極端に成績が落ちる。
・ダートで上級条件まで成績を残すのは、牡馬が多く、スプリント戦が得意。上級条件でも結果を残しています。中距離戦は苦手とまではいきませんが、上級戦では期待できません。牝馬はダートでは非常に苦戦。新馬・未勝利戦では勝てていますが、それ以上は期待できません。
・とにかく芝では上述した得意距離での「1走あたりの賞金」が極めて高く、長年リーディング上位をキープしています。
・2021年に成績が低迷。種付け頭数も減少。「生産現場の期待値」・「種付け料の増額」・「産駒の成績」のバランスが崩れ始めています。2022種付けもBOOK FULLにはなりませんでした。見かけの種牡馬リーディングは当面上位に位置しそうですが、今の1~3歳世代は、そもそも産駒数が少ないので、徐々に順位は落ちていく事が見込まれます。(ただ、高額種牡馬に対しては、各牧場は主力級の繁殖牝馬を交配相手に選ぶことが多いです。ポストディープ時代、2020年度産、現2歳世代が将来を占うことになるでしょう。)